画面の向こうで、僕らは「国」を取り戻せるか

<div class="separator" style="clear: both;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhwbLAshor3Zsefm34EPny-pRfMhq_krgBt9xTpNRZ8hm7BcPC0reLq0aZ0LCp5MLjK8FviuqN6OcGHc6-8jb4YCm_u7KsHc6eOGZ4ho3ri5EbQRrioGXY5rON7lkGsEEpNe_HSmwPw3d70128T1GS40SzISngrMJeIMRDNyc6Q4hf0nKy-lrjlFktSR0k/s1536/ChatGPT%20Image%202025%E5%B9%B46%E6%9C%8829%E6%97%A5%2010_25_11.png" style="display: block; padding: 1em 0; text-align: center; "><img alt="" border="0" width="600" data-original-height="1024" data-original-width="1536" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhwbLAshor3Zsefm34EPny-pRfMhq_krgBt9xTpNRZ8hm7BcPC0reLq0aZ0LCp5MLjK8FviuqN6OcGHc6-8jb4YCm_u7KsHc6eOGZ4ho3ri5EbQRrioGXY5rON7lkGsEEpNe_HSmwPw3d70128T1GS40SzISngrMJeIMRDNyc6Q4hf0nKy-lrjlFktSR0k/s600/ChatGPT%20Image%202025%E5%B9%B46%E6%9C%8829%E6%97%A5%2010_25_11.png"/></a></div> まずは、この物語の舞台となるヨーロッパで起きていることの、骨格だけをここに記しておこう。いわば、感情を抜きにした、無味乾燥な事実のリストだ。 * **ムーブメントの名称:** デジタル主権（Digital Sovereignty） * **概要:** アメリカ巨大IT企業（いわゆるGAFAM）への過度な依存状態から脱し、EU市民や国家が自らのデータを管理・保護し、デジタル環境をコントロールしようとする一連の動き。 * **背景:** * **政治的要因:** トランプ前大統領の復帰可能性や、それに伴う欧米間の政治・安全保障上の緊張再燃。 * **法的要因:** EUによるプライバシー保護や透明性を重視した法整備（GDPR、デジタルサービス法、AI法など）。 * **注目の欧州発サービス:** * **Ecosia（エコシア）:** ドイツ発の検索エンジン。広告収益を植林活動に寄付するモデルが特徴。欧州での検索数は前年比27%増を記録。 * **ProtonMail（プロトンメール）:** スイス発の暗号化メールサービス。プライバシー保護を重視し、欧州での利用が前年比11.7%増。 * **現実的な課題:** Ecosia等の検索結果の多くはMicrosoft Bingに依存するなど、インフラレベルでの完全な「脱・米国」は現時点では困難とされている。 --- さて、と。 無機質な箇条書きを眺めていると、なんだか遠い国の小難しい政治談議のように思えるかもしれない。「デジタル主権」、なんていう四角四面な言葉が、さらにその印象を加速させる。（正直、もっと心躍るネーミングはなかったものか） でも、少しだけ耳を澄ませてみてほしいんだ。この言葉の奥からは、もっと生々しくて、人間くさい「声」が聞こえてこないだろうか。それは、便利さという名の甘い麻酔から、少しずつ醒めようとする人々の、寝起きの気だるい、だけれども確かな意志を持った呟きのようなものだ。 僕らが毎朝、目を覚まして一番に手に取るスマートフォン。その冷たくて滑らかなガラスの板の上で、僕らは世界と繋がり、笑い、怒り、そして愛を囁く。でも、その舞台を誰が作り、どんなルールで運営しているのか、本気で考えたことはあるだろうか。僕らが裸足で駆け回っているそのデジタルな大地が、実は借り物の庭で、しかも庭師の機嫌次第でいつルールが変わるか分からないとしたら？ ヨーロッパの人々が感じ始めた「モヤモヤ」の正体は、きっとそこにある。長年、快適で便利な巨大ショッピングモールで何不自由なく暮らしてきたけれど、ある日ふと気づいてしまったんだ。「あれ、このモールのオーナー、最近なんだか気まぐれじゃないか？」と。商品の配置を勝手に変え、僕らの買い物リストを覗き見ては、絶妙なタイミングで「あなたへのおすすめ」を囁いてくる。便利だけど、少し、気味が悪い。そのオーナーが、遠く海の向こうで僕らのあずかり知らぬ理由でご機嫌を損ねたら、このモール自体が閉鎖されてしまうかもしれない。そんな漠然とした不安が、じわりと空気を湿らせていく。 この状況、なんだか既視感があるなと思ったら、思い出した。**これは、巨大な流通網を持つスーパーマーケットの独壇場だった町に、住民たちが自分たちの手で小さな「ファーマーズマーケット」を開こうとする試みにそっくりだ。** 形は不揃いかもしれない。品揃えだって、あの巨大スーパーには遠く及ばない。けれど、そこには「このトマトは、隣のジョセフさんが作ったんだ」という物語がある。土の匂いがする。作り手の顔が見える安心感がある。 ドイツ生まれの「Ecosia」なんて、まさにその象徴じゃないか。検索するたびに、地球のどこかに木が一本植わる。僕らの指先ひとつ、そのクリックの乾いた音が、遠い土地の緑を育むせせらぎの音に変換される。なんて詩的なんだろう。もちろん、懐疑的な自分はこうも囁く。「それで地球が救えるほど、世界は甘くないだろ？」と。でも、違うんだ。これは、効率や結果だけの話じゃない。これは意思表示なんだ。「僕は、自分のクリックに意味を持たせたい」という、ささやかだけど、尊い革命の狼煙なのだ。 スイス発の「ProtonMail」もそうだ。「スイス製」と聞いただけで、なぜか僕らは頑丈な金庫や精密な時計を思い浮かべ、条件反射で「安全だ」と感じてしまう。（このブランドイメージ、半端じゃないな）。エンドツーエンドの暗号化。つまり、僕と君の間で交わされる手紙は、配達人にも中身を読まれないということ。当たり前のようで、実は当たり前じゃなかったプライバシーという名の温かい毛布。それを、もう一度自分たちの手に取り戻そうとしている。 ねえ、少し想像してみてくれないか。あなたが今、この文章を読んでいるその場所で。もし、壁や天井がすべてマジックミラーでできていて、その向こうから常に誰かに観察されているとしたら？きっと、心からリラックスすることはできないだろう。僕らが巨大IT企業のサービスを使うというのは、程度の差こそあれ、そういうことなのかもしれない。 もちろん、現実はそんなに単純じゃない。ファーマーズマーケットで売られている野菜だって、その種や肥料は結局、巨大企業の作ったものを買っていたりする。Ecosiaの検索結果が、実は巨大なライバル企業のエンジンに頼っているように。完全な独立なんて、今のところは幻想だ。僕らはもう、その巨大なインフラという名の重力圏から、完全には逃れられない。 でも、それでも、この潮流は止まらないだろう。なぜなら、これは「100か0か」の戦いではないからだ。100%の依存を、90%に、80%に減らしていく。そのわずかな隙間に、自分たちの価値観を植え付けていく。公共機関がMicrosoftからLinuxへ移行する。それは、無味乾燥なOSの変更じゃない。それは「僕らは、自分たちの手でソフトウェアを修正し、改良する権利を放棄しない」という宣言だ。 このヨーロッパの風は、きっと僕らの住むこの島国にも、いずれ届く。僕らはどうだろう。黒船が来たときのように、ただただその巨大さに圧倒され、なすすべなく門戸を開くのだろうか。それとも、したたかにその技術を学び、自分たちのやり方で「和魂洋才」ならぬ「和魂デジタル才」を編み出していくのだろうか。 壮大な話になってしまったけれど、始まりはいつも、とても個人的な選択だ。 「Ecosiaで検索してみた」という、SNSのハッシュタグ。 「ProtonMailに乗り換えてみたけど、意外と使いやすいよ」という、友人との何気ない会話。 それは、デジタルという広大な荒野に、一本の苗木を植えるような行為だ。その一本が森になるには、途方もない時間がかかるかもしれない。でも、誰かが始めなければ、そこには永遠に風が吹き荒れるだけだ。 まずは一度、Ecosiaの検索窓に、好きな言葉を打ち込んでみてはどうだろう。エンターキーを押す。その瞬間、あなたはただの消費者ではなく、この物語の、ささやかな、しかし確かな登場人物になるのだから。 -- ### 参考リンク * [Europeans seek 'digital sovereignty' as US tech firms embrace Trump (Reuters)](https://www.reuters.com/business/media-telecom/europeans-seek-digital-sovereignty-us-tech-firms-embrace-trump-2025-06-21/?utm_source=chatgpt.com) * [The Privacy‑Friendly Tech to Replace Your US‑Based Email, Browser, and Search (Wired)](https://www.wired.com/story/the-privacy-friendly-tech-to-replace-your-us-based-email-browser-and-search?utm_source=chatgpt.com)