スマホよ、お前はあと何年戦えるか？――EUから届いた、愛と修理の通知表

<div class="separator" style="clear: both;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh01Tf3SqM-aOZzje-Pd7hPKXzwpbre_HkrbIf2nBPpI273FFqtSLE4FE9svheDPtKjxukOVGXZhuvNiLTmgSB6XjIX_a84RUFBnAXuNG6rVM6wBaXimRn0kz3piUdIyJpPXGp4YTwxmhBDuhbTlRMie0IfcZUcJn9ahBP8dLmYv41ZpGueUaefwThfzIg/s1536/ChatGPT%20Image%202025%E5%B9%B46%E6%9C%8830%E6%97%A5%2012_12_22.png" style="display: block; padding: 1em 0; text-align: center; "><img alt="" border="0" width="600" data-original-height="1024" data-original-width="1536" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh01Tf3SqM-aOZzje-Pd7hPKXzwpbre_HkrbIf2nBPpI273FFqtSLE4FE9svheDPtKjxukOVGXZhuvNiLTmgSB6XjIX_a84RUFBnAXuNG6rVM6wBaXimRn0kz3piUdIyJpPXGp4YTwxmhBDuhbTlRMie0IfcZUcJn9ahBP8dLmYv41ZpGueUaefwThfzIg/s600/ChatGPT%20Image%202025%E5%B9%B46%E6%9C%8830%E6%97%A5%2012_12_22.png"/></a></div> まずは、今回の物語の主役となる制度の、いわば公式プロフィールからご紹介しよう。クールで、ちょっとお堅い、客観的な事実のリストだ。 * **制度の名前：** スマートフォン及びタブレット向けエネルギーラベル制度 * **始まる場所と時：** 欧州連合（EU）域内で、2025年6月20日から * **対象となる者たち：** スマートフォン、フィーチャーフォン（いわゆるガラケーだ）、コードレス電話、そして板状のタブレットたち * **表示が義務付けられる場所：** お店のパッケージ、ネットの商品ページ、あの読まれないことも多い取扱説明書のPDFにまで * **評価されること：** * 省エネ度（A～Gのクラス分け） * バッテリーの持久力と、800回充電を繰り返した後のへこたれなさ * 45回もコンクリートに落とされた後の生存確認 * ホコリと水への強さ * 修理のしやすさ（A～Eのスコア付き） * ソフトウェア・アップデートを最低5年保証してくれるかという約束 --- いつものように、僕は左手でスマートフォンを握りしめていた。SNSのタイムラインを親指でなぞり、世界の断片を網膜に焼き付ける。つるりとしたガラスの感触、指先に吸い付くような反応速度。それはもはや、僕の身体の一部であり、思考の延長線上にある臓器だ。壊れたら？ バッテリーが尽きたら？ ――考えるまでもない。「新しいもの」に交換する。それが、この十数年で僕らの脳に深く刻み込まれた、抗いがたい条件反射だった。 そこへ、海の向こうのヨーロッパから、なんとも奇妙で、それでいて胸がざわつくような報せが届いた。2025年6月20日、EUがスマホやタブレットに「エネルギーラベル」を義務付ける、と。 「エネルギーラベル？ ああ、冷蔵庫とか洗濯機に貼ってある、あの緑から赤へのグラデーションのやつか」。最初は、そんな風に高を括っていた。省エネ性能をAからGで格付けする。ふむ、結構なことじゃないか。どうせなら、僕のスマホも地球に優しいAクラスであってほしい。そんな、どこか他人事のような感想しか浮かばなかった。 だが、その詳細を知るにつれて、僕の親指はスクロールを止め、心臓がトクン、と奇妙なリズムを刻み始めた。なんだこれは。バッテリーの寿命？ 800回充放電した後の性能維持率？ まてまて、落下テスト45回？！ そして極めつけは「修理スコア」。分解のしやすさ、交換部品の価格まで点数化されるだと？ （これは……事件だ） もはや、ただの省エネ性能のお話ではない。これはEUが、僕ら現代人の「臓器」であるスマホに対して突きつけた、壮大な健康診断であり、未来の生き様を問う、一種の哲学的な挑戦状なのだ。 ねえ、少し想像してみてほしい。あなたが家電量販店のきらびやかな照明の下で、ずらりと並んだ最新スマホを品定めしている姿を。これまでの僕らは、何を基準に選んでいただろう？ カメラの画素数、画面の美しさ、プロセッサの速さ。それはまるで、アイドルの宣材写真だけを見て「推し」を決めるような行為だったかもしれない。見た目の華やかさと、カタログスペックという名の芸歴。それだけが、僕らの判断材料だった。 しかし、この新しいラベルが導入された未来の売り場は、全く違う景色になるだろう。スペック表という名の履歴書に、新たに「人柄」や「健康状態」の欄が追加されたようなものだ。 「こちらのモデルは、カメラ性能はピカイチですが、見てください、この修理スコア『D』を。一度画面が割れたら、もう心も懐もボロボロですよ」 「あちらのモデルは、見た目は地味ですが、バッテリーは800回使ってもへこたれず、修理スコアも堂々の『A』。まるで実直で、いざという時に頼りになるパートナーのようです」 なんてこった。スマホ選びが、まるでペットショップで子犬の血統書や健康状態を隅々まで眺め、「この子となら、長く一緒にいられるだろうか」と思いを巡らせるような、深く、そして人間臭い行為に変わるじゃないか。 「修理スコア」。この言葉の響きには、特別な魔力がある。これまで、「修理」という行為は、どこか専門的で、僕らユーザーからは遠い世界の出来事だった。画面が蜘蛛の巣状に割れたスマホを手に、絶望的な気持ちでジーニアスなバーやキャリアショップの門を叩く。提示される高額な修理費にめまいを覚え、「いっそ買い替えた方が……」と悪魔の囁きに耳を貸す。誰もが一度は経験したことのある、あのやるせない儀式だ。 だが、スコアが公表されれば話は違う。メーカーはもう、「修理させない」設計で儲けることが難しくなる。専用の工具がなければ開けられない接着剤だらけの筐体、法外な値段の交換パーツ。そういった「不親切」は全て、白日の下に晒される。僕らは購入前に、QRコードをスマホで読み込み、EPREL（EU製品レジストリ）のサイトに飛んで、そのスマホがバラバラにされていく「解体動画」まで確認できるというのだ。（もはや、メーカーによる公式解体ショーだ！） これは、ガジェット好きだけの話じゃない。むしろ、僕のように「壊れたら捨てる」ことに慣れきってしまった、全ての人々に関わる革命なのだ。 あなたの引き出しの奥にも、眠っていないだろうか。バッテリーが1時間も持たなくなった古いiPhoneが。画面の一部が反応しなくなった、かつての相棒が。彼らの亡骸に触れるたび、微かな罪悪感と、新しいガジェットを手に入れた時の高揚感が入り混じった、複雑な匂いが蘇る。僕らは、あまりにも多くの「死」の上に、今の便利な生活を築き上げてきたのかもしれない。 このEUの試みは、そんな僕らの使い捨て文化の鎖を、カチリ、と音を立てて外そうとする試みだ。バッテリーは、最低でも800回のフル充電サイクルを経た後も、初期容量の80％以上を維持することが求められる。これはつまり、約2～3年使っても、まだまだ現役で戦えるというメーカーからの約束手形だ。部品は7年間供給され、ソフトウェアのアップデートは最低5年。もはや、スマホは2年で買い替える消耗品ではない。「5年、いや7年付き合うパートナー」として、僕らの前に現れる。 そうなると、僕らの価値観も変わらざるを得ない。 海外通販で「安かろう悪かろう」の博打を打つ必要はなくなる。EU版というだけで、「長持ち」というお墨付きが得られるのだから。 ライフスタイル系のインフルエンサーは、きっとこう発信するだろう。「#新しいガジェットより長く使う工夫がクール」「#修理スコアAのスマホでサステナブルな私」。そうだ、モノを大切にすることが、一番の「映え」になる時代が来る。 メーカーたちの、悲喜こもごもな表情も目に浮かぶようだ。 Appleは、きっとプライドをかけて自社のリペアプログラムを強化するだろう。「我々の製品は元々、長く使える設計思想だ」と涼しい顔をしながらも、修理スコアの「B」判定予測には内心穏やかじゃないはずだ（笑）。 Samsungは「7年保証」を掲げ、高級モデルの価値をさらに高めようとするだろう。一方で、安価なモデルでどうやってこの厳しい基準をクリアするのか、頭を抱えているかもしれない。 XiaomiやOPPOといった新興勢力は、これを機にヨーロッパでのブランドイメージを刷新しようと躍起になるだろう。価格だけでなく、「長く使える信頼性」という新しい土俵での戦いが始まる。 そして、オランダのFairphone。修理しやすさを何よりも大切にしてきた、あの“エシカル端末の元祖”は、きっとこう呟いている。「フッ、時代がようやく我々に追いついたか」と。 もちろん、日本でこの制度がすぐに義務化されるわけではない。だが、この波は必ず届く。総務省がこの動きを参考にしているという話もあるし、何より、僕らユーザーの意識が変わるからだ。一度「修理しやすいスマホ」という選択肢を知ってしまえば、もう後戻りはできない。中古市場では、修理スコアの高い機種が高値で取引され、結果的にトータルのコストを下げるという美しい循環が生まれるだろう。キャリアの料金プランも、「毎年乗り換え」から「3年縛り＋手厚い修理保証」へとシフトしていくかもしれない。 これは単なる規制強化ではない。EUが仕掛けた、壮大な「モノへの愛着を取り戻す」ためのゲームだ。スペック表の数字を追いかけるだけの無機質な競争は終わる。これからは、どれだけ長く、深く、一つのデバイスと付き合えるか。その「関係性の質」が問われるのだ。 次にあなたがスマホを選ぶとき、どうか思い出してほしい。その輝くボディの奥には、これから何年もの時を共に過ごすための「覚悟」が隠されていることを。色やカメラ性能で選ぶのもいい。でも、その隣にある「A」や「B」のスコアを眺めながら、「こいつとなら、どんな旅ができるだろう」と未来を想像してみてほしい。 環境に優しく、財布にも優しい。そんな当たり前のこと以上に、このラベルは、僕らの消費行動に「物語」と「愛着」を取り戻してくれる。あなたの“推しスマホ”選びは、きっともっと人間臭くて、温かくて、愛おしいものになるはずだ。さあ、新しい時代の幕開けだ。 --- ### 参考リンク * [European Commission – EU rules for durable smartphones and tablets](https://single-market-economy.ec.europa.eu/news/new-eu-rules-durable-energy-efficient-and-repairable-smartphones-and-tablets-start-applying-2025-06-20_en) * [The Economic Times – EU launches radical smartphone labels](https://economictimes.indiatimes.com/news/international/us/eu-launches-radical-smartphone-labels-to-expose-flaws-and-features-heres-what-you-need-to-know/articleshow/121980307.cms) * [Right to Repair Europe – Repair labels, spare parts and longer support](https://repair.eu/news/repairability-labels-spare-parts-and-longer-support-for-smartphones-and-tablets-as-of-june-2025-but-we-need-more-repairable-designs/) * [AppleInsider – Apple devices in EU getting repair scores](https://appleinsider.com/articles/25/06/20/apple-devices-in-eu-getting-repair-scores-battery-life-labels) [1]: https://m.economictimes.com/news/international/us/eu-launches-radical-smartphone-labels-to-expose-flaws-and-features-heres-what-you-need-to-know/articleshow/121980307.cms "eu smartphone energy label: EU launches radical smartphone labels to expose flaws and features — here’s what you need to know - The Economic Times" [2]: https://single-market-economy.ec.europa.eu/news/new-eu-rules-durable-energy-efficient-and-repairable-smartphones-and-tablets-start-applying-2025-06-20_en "New EU rules for durable, energy-efficient and repairable smartphones and tablets start applying - European Commission" [3]: https://repair.eu/news/repairability-labels-spare-parts-and-longer-support-for-smartphones-and-tablets-as-of-june-2025-but-we-need-more-repairable-designs/ "Repair labels, spare parts and longer support for smartphones and tablets as of June 2025 - but we need more repairable designs - Right to Repair Europe" [4]: https://appleinsider.com/articles/25/06/20/apple-devices-in-eu-getting-repair-scores-battery-life-labels "Apple devices in Europe are getting repair scores & battery life labels"