肌が求めていたのは、ポエムじゃなくて論文だった。

<div class="separator" style="clear: both;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEio-6TqD1Gm9lAts-Cmp4SvBCcxLf6AseT_MpzJxnWwtgTd2txtxuDzpKGeMunf5dtWnT6ioGYeRbKuZaM28xXeXm1gSrEMFNXmIWiYeq7JLZUFvsdWp5KWAn6_Y-ZcmKxOIR25_ALAEuYbIkEioGndnw2SRXj8fd8ucnq3nghzuUaBfKxcs6YEvz1B1z0/s1024/ChatGPT%20Image%202025%E5%B9%B47%E6%9C%882%E6%97%A5%2014_12_39.png" style="display: block; padding: 1em 0; text-align: center; "><img alt="" border="0" width="600" data-original-height="1024" data-original-width="1024" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEio-6TqD1Gm9lAts-Cmp4SvBCcxLf6AseT_MpzJxnWwtgTd2txtxuDzpKGeMunf5dtWnT6ioGYeRbKuZaM28xXeXm1gSrEMFNXmIWiYeq7JLZUFvsdWp5KWAn6_Y-ZcmKxOIR25_ALAEuYbIkEioGndnw2SRXj8fd8ucnq3nghzuUaBfKxcs6YEvz1B1z0/s600/ChatGPT%20Image%202025%E5%B9%B47%E6%9C%882%E6%97%A5%2014_12_39.png"/></a></div> まずは、この物語を理解するための、いくつかの客観的な事実から。 * **美の潮流:** 「クリーンビューティー」という、心地よい響きの時代は終わりを告げつつある。主役の座は「クリニカルビューティー」へ。キーワードは、臨床的な有効性、科学的根拠、そして本質的なサステナビリティ。 * **業界の動き:** このシフトを証明するように、大手によるM&A（買収・合併）が活発化。例えば、Puig社によるドクターズコスメ「Dr. Barbara Sturm」の買収や、資生堂による「Dr. Dennis Gross Skincare」の買収などがその代表例。 * **投資家の視点:** 彼らが今、大金を投じるのは「夢」や「物語」ではない。「効果」「科学」「持続可能性」という、具体的で検証可能な価値を持つブランドに、熱い視線が注がれている。 *** 白状しよう。私もかつて、「クリーンビューティー」の熱心な信者だった。 琥珀色のオイルが詰まった、ミニマルなデザインのガラス瓶。アマゾンの奥地でしか採れないという希少な植物の物語。そして、「パラベン、シリコン、その他もろもろ、入れてません」という、まるで善行を積んでいるかのような安心感。私の化粧台は、そんな“優しい”コスメたちで埋め尽くされていた。 肌に塗るたび、私はそのポエムを読んでいたのだ。地球に優しく、私の肌にもきっと優しいはず。そう信じて疑わなかった。 …でも、心のどこかで、ずっと小さな声がしていた。 「で、私の毛穴、昨日と何か変わった？」 その声に気づかないふりをしながら、また新しい物語（＝新製品）に手を伸ばす。そんな日々。それはそれで、幸せな時間だったのかもしれない。プラシーボ効果という名の、穏やかな夢の中にいたのだから。 転機は、ある日突然やってきた。いつものようにSNSを眺めていたら、一枚の画像が目に飛び込んできたんだ。それは、あるドクターズコスメの臨床データ。被験者の肌のキメが、シワの深さが、水分量が、グラフと数値で赤裸々に示されている。そこにポエムはなかった。あったのは、冷徹なまでに客観的な「事実」だけ。 （…私が知りたかったの、これじゃん） 雷に打たれたような衝撃だった。私が肌に求めていたのは、心地よい気休めや美しい物語じゃなかった。結果だ。私の肌という、この複雑で気難しい問題を解決するための、具体的なソリューション。つまり、論文だったのだ。 ねえ、正直なところ、あなたも心のどこかで気づいていなかっただろうか。 「優しさ」だけでは、どうにもならないことがある、と。 「クリニカル」という言葉を聞くと、どこか冷たくて、無機質な響きを感じるかもしれない。薬品の匂いがする、真っ白な研究室。でも、今の私には、そこが何よりも信頼できる聖域（サンクチュアリ）に思える。 そこでは、「奇跡の植物エキス」なんていう曖昧な言葉は使われない。「ペプチドがコラーゲン生成をどうサポートするか」「レチノールがターンオーバーをどう促進するか」が、データに基づいて語られる。それは、肌の中で起きている化学反応への、深いリスペクトに満ちた対話だ。 この「クリーン」から「クリニカル」への大きなうねりは、私に言わせれば、恋愛のステージの変化によく似ている。 それはまるで、**口先ばかり達者で甘い言葉を囁き、記念日には素敵な花をくれるけれど、肝心なときにはいつも曖昧に笑ってごまかす恋人に別れを告げ、口下手でサプライズは苦手だけど、こちらの将来設計を真剣に聞いてくれて、具体的なライフプランを提示してくれる、信頼できるパートナーに乗り換えるようなもの**だ。 ロマンは減るかもしれない。でも、手に入るのは揺るぎない「安心」と「未来」だ。 業界全体が、この「信頼できるパートナー」探しに躍起になっている。PuigがDr. Barbara Sturmを、資生堂がDr. Dennis Grossを、巨額を投じて手に入れた。それは、「もうポエムの時代じゃない、これからは論文だ」という、市場からの明確な意思表示に他ならない。 e.l.f.がRhodeを買収するかも、なんて噂が流れるのも、この文脈で考えればあまりに自然なこと。若者カルチャーの象徴と、クリニカルな実力が手を組む。それは、新しい時代の愛の形なんだろう。 私たちはもう、ブランドが紡ぐ物語を、ただうっとりと聞いているだけの存在じゃない。 私たちは、成分表を読み解き、臨床データに目を光らせ、自分の肌でその「論文」の正しさを検証する、賢くて、ちょっとシビアな研究者になった。 化粧台の前に立ち、ずらりと並んだボトルを眺める。 かつてあれほど愛おしかったポエムの数々は、今では少し色褪せて見える。その代わりに私が今、手を伸ばすのは、無骨だけど頼もしい、一本の論文。その一滴が肌に馴染むとき、私は感じる。これは、気休めじゃない。明日を変えるための、確かな一手なのだと。 さあ、あなたの肌は、どんな言葉を求めている？ ----- ### 参考リンク * [The New Era of ‘Clean’ Beauty Is Backed by Science](https://www.google.com/search?q=https://www.businessoffashion.com/articles/beauty/the-new-era-of-clean-beauty-is-backed-by-science/) * [The Counter-Movement: From Clean Beauty to Biotech](https://www.google.com/search?q=https://beautymatter.com/articles/the-counter-movement-from-clean-beauty-to-biotech) * [‘Clean’ Is No Longer Enough for Shoppers](https://www.google.com/search?q=https://wwd.com/beauty-industry-news/skin-care/clean-beauty-shoppers-want-more-1235570086/) * [Puig Acquires Dr. Barbara Sturm](https://www.google.com/search?q=https://wwd.com/beauty-industry-news/beauty-features/puig-acquires-dr-barbara-sturm-1236142995/) * [資生堂、米国の皮膚科医発高機能スキンケアブランド「DR. DENNIS GROSS SKINCARE」を買収](https://www.google.com/search?q=https.corp.shiseido.com/jp/news/detail.html%3Fn%3D00000000003737) * [Beauty M\&A 2024: Navigating a Shifting Landscape](https://www.google.com/search?q=https://beautymatter.com/articles/beauty-m-a-2024-navigating-a-shifting-landscape) * [What Beauty Investors Are Looking For Now](https://www.google.com/search?q=https://www.businessoffashion.com/articles/beauty/what-beauty-investors-are-looking-for-now-ipo-ma/) * [‘The new guard of legacy brands’: Why investors are backing science-led indie brands](https://www.google.com/search?q=https://www.glossy.co/beauty/the-new-guard-of-legacy-brands-why-investors-are-backing-science-led-indie-brands/) * [「クリーンビューティー」はもう古い？　これからは有効成分や科学的根拠を求める「クリニカルビューティー」](https://www.google.com/search?q=https://www.wwdjapan.com/articles/1478142) * [【2025年春夏】海外ビューティの最新トレンド　「ニューロ・グロウ」や「バイオ・シック」とは？ FASHIONSNAP](https://www.google.com/search?q=https://www.fashionsnap.com/article/2024-06-25/beauty-trend-25ss/)